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体外受精

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体外受精・顕微授精

特に明らかな異常がない場合に、タイミングで妊娠せず、さらに人工授精でも妊娠しない時は、体外受精の適応となります。両側の卵管の閉塞、子宮外妊娠などで卵管が摘出されている場合には、以前であれば、妊娠をあきらめるしかありませんでした。今から30年前にあたる1978年にイギリスで最初の体外受精児が誕生後、世界中で体外受精が行われ、数々の改善が加えられ、現在では体外受精という手技はめずらしいものではなくなりました。現在、日本で生まれる赤ちゃんの18人に1人(毎年増加しています)は体外受精児であるほど一般的なものになりました。

体外受精が適応となるのは次のような夫婦になります。

  • 卵管性不妊:両側の卵管が詰まっている時。
  • 男性不妊:精子の数が少ない、動きが鈍い、または精液中に精子がいない時。
  • 免疫性不妊:抗精子抗体をもっており、体内で受精しにくい時。
  • 子宮内膜症:一般不妊治療では妊娠しなかった時。
  • 原因不明不妊:検査の結果に異常はないが、人工授精を含めた一般不妊治療では妊娠しなかった時。

さらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

体外受精の流れ

体外受精の過程を簡単に説明しますと、次のようになります。

  1. 排卵誘発…排卵誘発剤により卵巣を刺激して卵を育てます。
  2. 採卵・採精…卵巣を穿刺し、卵子を体外に取り出します。精液を採取してもらいます。
  3. 受精…卵と精子を体外で掛け合わせます。
  4. 培養…培養器の中で受精卵を育てます。
  5. 移植…胚を子宮に戻します。
  6. 黄体補充…ホルモン剤により胚が子宮内膜に着床しやすい環境に整えます。
  7. 凍結・融解…移植に使用しなかった余剰胚を凍結して保存し、新鮮胚で妊娠しなかった時に、別の周期に凍結胚を融解した胚を体内に戻します。

1.排卵誘発
「質の良い卵を育てる」

自然周期に卵1個を採取する方法もありますが妊娠率が低いため、排卵誘発剤を使用し複数個の卵を育てて採取することになります。その中で一般的に行われている方法を説明します。
採卵の前周期の卵胞の発育が採卵周期に遺残卵胞として存在することを避けるため、前周期にホルモン剤、低用量ピルを使用することがあります。
ロング法:点鼻薬(GnRHアゴニスト)を採卵前周期の黄体期中期(月経21日目ころ)からhCG投与日まで毎日噴霧して自発排卵を防ぎ、採卵周期の月経3日目以降に毎日hMGの注射し、卵を育てます。経膣超音波で卵胞(卵子の入っている袋)の発育を観察し、2個以上の卵胞が直径18mmを越えた時点でhCGを投与し、排卵、卵の成熟を促します。hCGを投与してから、だいたい34~36時間後に採卵します。この時間より早くに採卵すると、未熟な卵が取れてしまい、受精できません。また、遅すぎると排卵が起きてしまい、卵を取り出せなくなってしまいます。
ショート法:点鼻薬(GnRHアゴニスト)を月経1-2日目からhCG投与日まで毎日噴霧して自発排卵を防ぎ、その翌日からhMGの注射を毎日し、卵を育てます。後はロング法と同様で、卵胞が直径18mmを超えた時点でhCGを投与し、投与後34~36時間後に採卵します。
GnRHアンタゴニスト法:最近多く使われるようになった新しい方法です。月経3日目ころからhMGの注射を毎日し、卵を育てます。卵胞直径が14mmを超えた時点からは自発排卵を防ぐGnRHアンタゴニストとhMGを2-3日間投与します。後は上記方法と同様で卵胞が直径18mmを超えた時点でhCGを投与し、投与後34~36時間後に採卵をします。ただし、hCGの注射の代わりに点鼻薬(GnRHアゴニスト)を使って排卵、卵の成熟を促す場合もあります。
この他にも経口剤の排卵誘発剤を使用する方法などの方法がありますが、大切なのは自分に合った『卵づくり』です。個人によってhMG投与量や卵の育ち具合も変わります。医師の説明をよく聞き、質の良い卵を育てていきましょう。

副作用

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)・・・排卵誘発剤投与により多くの卵胞が発育し、hCG投与後、卵巣が腫大し、腹水・胸水が貯留することがあります。血管内の水分が腹水中に移動し、腹水となり、重症化すると血管内の水分が少なくなるため、血液濃縮が起こり、血栓症や腎機能不全になることがあります。多くの場合は腹部膨満感や下腹痛といった軽度のOHSSを示し、2週間以内に自然に軽快します。
しかし、妊娠すると症状が持続することがありますので、多数の卵が発育した場合には採卵周期には移植をしないで、すべての胚を凍結し、後日移植をすることもあります。
また、卵胞の数が非常に多く、血液中のエストロゲン量が多い場合は、最後のhCGの注射はせず、採卵自体が中止になることもあります。折角毎日注射をしたのに、と思われるかも知れませんが、重症OHSSは命にも関わることがありますので、次回に期待していただきたいと思います。
最近は上記のような重症化になるOHSSはほとんどなくなりましが、採卵後、腹部膨満感や下腹痛、尿量の減少などの症状があれば、すぐ医師に伝えてください。

2.採卵・採精
「卵・精子を体外に取り出す」

1.採卵

ほとんどの場合、麻酔をして採卵します。全身麻酔、静脈麻酔、腰椎麻酔、局所麻酔など、施設によって異なります。また、日帰り入院で採卵をする施設、1~2日間入院が必要な施設があります。当院では日帰りです。
採卵方法ですが、腟の方から経膣超音波で卵胞を確認し、針を刺して卵胞液を吸引していきます。この吸引された卵胞液の中に卵があるかどうかを調べ、シャーレの培養液中に卵を入れ、インキュベーターと呼ばれる培養器に保管されます。
採卵に要する時間は卵胞数によって異なりますが、だいたい10~20分で終了します。採卵時に痛みを感じることがあるかもしれませんが、強い痛みではありません。内膜症など癒着がある場合、採卵の穿刺そのものより、超音波で診察することにより痛みを感じる人もいます。

  • 全身麻酔:口に管を入れ麻酔のガスを注入し、眠らせる方法。呼吸の管理が必要になります。
  • 静脈麻酔:全身麻酔の一種で、静脈に麻酔剤を注入し、眠らせる方法。
  • 腰椎麻酔:脊髄内にある髄液の中に麻酔剤を注入し、下半身のみに麻酔が効く方法。
  • 局所麻酔:注射をした周囲だけ麻酔が効く方法。

採卵時の副作用

  • 麻酔薬

    非常にまれではありますが、特異体質の方は麻酔薬によってショックも起きる事があります。アレルギーなどあれば、事前にお伝えください。
  • 腹腔内出血

    経膣超音波で確認しながら針を刺しますが、細い血管の存在は超音波では確認できません。膣壁・卵巣からの出血はある程度生じますが、開腹止血手術が必要になることは極めてまれです。
  • 感染症

    採卵時に腟内の細菌が腹腔内に入ることにより、骨盤内感染を発症し発熱や腹痛といった症状がまれに現れることがあります。これを避けるため腟内の充分な洗浄、消毒や予防のため採卵後に抗生物質を投与します。しかし、これも完全に発生を抑えることは困難と言われています。
  • 他臓器穿刺

    他臓器の穿刺はほとんどありませんが、卵巣周囲に腸などの癒着が疑われる場合には、その危険性が増しますので、その場合には採卵が中止になることがあります。

2.採精

精子の状態を考えますと、採卵後に採精することが望ましいです。当院にもありますが、多くの施設で専用の採精ための部屋が設置されていますので、安心して採精できると思います。しかし、ご主人の都合で来院できない場合には、自宅で専用の容器に採精し持参することも可能です。

3.受精

射出された精液中には衣類などの繊維や雑菌等が含まれているので、これらを取り除く必要があります。施設によって方法は異なりますが、遠心分離をして洗浄濃縮をした後、良好な運動精子を回収し、シャーレ内の卵子に添加し、精子が自ら卵子に進入することにより受精させます。いくつか精子回収方法を紹介します。

  • 密度勾配遠心法:密度の異なる培養液の上に精液をのせ、遠心分離します。すると、密度の高い良好運動精子は沈殿するので、底にたまった精子を回収します。
  • スイムアップ法:濃縮した精液の上に培養液をのせて、しばらく静置すると精子は上部に泳いできます。培養液上部まで泳いできた良好運動精子を回収します。

受精方法には以下の2つがあります。

  • 媒精法:採取された卵は卵丘細胞と呼ばれる細胞で周囲を覆われています。その拡散状態や色調を見て成熟状態や質を判断しますが、すべての卵が成熟しているとは限りません。そのため、受精可能な状態になるまで、採卵してから3~5時間培養する必要があります。この間に、上記のような方法で良好運動精子を回収します。卵周囲は卵丘細胞で覆われていますので、卵1個が受精するためには5~10万匹の良好運動精子が必要です。受精に必要な数の良好運動精子をシャーレの中に入れ(“媒精”といいます)、卵と一緒に培養する方法です。体外へ取り出した卵と精子を受精しやすい環境に整えますが、最終的な受精については自然の力に任せている方法になります。媒精後1~2時間で精子は卵の細胞内に侵入していると言われています。
  • 顕微授精法(ICSI):媒精法と同様で、受精可能な状態になるまで卵子を培養します。その後、卵丘細胞を除去し、顕微鏡下で細いガラス管を用いて1匹の精子を卵の中に入れる方法です。適応となる症例は以下のとおりになっています。
  1. 重症乏精子症・・・精子数が通常の体外受精(媒精法)では期待できない数である場合
  2. 精子無力症・・・運動精子が非常に少ない場合
  3. 精子奇形症・・・奇形を認める精子が非常に多い場合
  4. 不動精子・・・精子が全く運動性を有しない場合
  5. 精巣上体精子あるいは精巣精子による受精・・・無精子症や射出障害で精子の採取が困難な場合
  6. 精子-透明帯/卵細胞膜貫通障害・・・精子の卵への貫通障害がある場合(受精障害)
  7. 抗精子抗体陽性・・・抗精子抗体があるため体内で受精しにくい場合
  8. 通常の体外受精の媒精法で受精する卵が少ない場合(受精障害)
  9. 反復不成功例・・・通常の媒精法で受精したものの、複数回移植しても妊娠しない場合

媒精、もしくはICSIの17~20時間後に顕微鏡下で受精の確認をします。ここでは、卵の細胞内に前核と呼ばれる卵由来の核と精子由来の核を確認します。正常受精の場合、2つの前核が確認できますが、異常受精の場合は3つ以上の前核が確認できます(多精子受精)。よって、異常受精卵はここで排除されます。

4.培養(受精卵を育てる)

培養器の中で受精卵を育てます。多くの場合、2~3日間培養し、4~8細胞に育った初期胚を移植します。
現在では5日間培養し、胚盤胞と呼ばれる分裂が進んだ状態まで育てて移植することもあります(下記の胚盤胞移植を参考)。

受精卵は下の図のように育っていきます。

5.移植

育った胚は子宮内あるいは卵管内に移植されますが、経腟超音波で子宮を観察し、やわらかいカテーテルを子宮内に挿入し、培養液と共に胚を子宮に戻します。
質の良い胚を戻すことで、より妊娠が期待できますが、一番グレードが良くても、100%着床し妊娠するわけではありません。顕微鏡で形態的に良好胚と思われる受精卵でも半数以上は染色体異常があると言われています。この異常がある胚は妊娠したとしても継続は難しく、流産になりますので、異常児が多くなるということではありません。また、グレードが多少悪くても妊娠、分娩にいたることもあります。あくまでグレードは参考程度であると考えて下さい。単にグレードだけでは妊娠に至るか否かは判定できません。あまりグレードだけに神経質にならないほうがいいと思います。各施設で独自の評価方法があり、単にグレードと言っても施設で異なる事もあり比較できません。ここではよく使用されている初期胚のためのVeeck分類を紹介します。
Veeck分類・・・胚の中に占めるフラグメントの割合、割球の大きさによって初期胚の形態を評価し、グレード1から5までに分類します。フラグメントとは、割球以外にあるブツブツした小さな細胞質の断片化したものです。この割合が高いと胚が染色体異常である確率が高いと言われており、フラグメントが15%以内の胚では約30%が胚盤胞に成長しますが、35%を超える場合は胚盤胞になるのは約10%とされています(この分類ではグレードの数字が低くなるほど質は良い胚を示しています)。

胚の発育スピードも指標の1つです。発育が遅れている場合や逆に発育が速すぎる場合には、妊娠する率は低くなります。目安は採卵後2日目で4分割、3日目で8分割になります。採卵後3日目で分割が7〜8の時が最も染色体異常が少ないとされていますが、それでも50%以上の細胞に染色体異常があると言われています。この染色体異常がある場合には分娩には至りませんので、異常の赤ちゃんが生まれるということではありません。6個未満の場合の妊娠率は9.7%、6個以上の時は23.6%という報告もあります。

胚移植方法にも種類があります。

  • 初期胚移植:通常の移植方法で、採卵してから2~3日後に初期胚を体内に戻します。
  • 胚盤胞移植:採卵後5~6日目に胚盤胞を移植する方法です。胚盤胞1個あたりの着床率が高いので、1個移植することで、多胎妊娠の予防になります。しかし、胚盤胞まで発育しない場合は移植がキャンセルになることもあります。

胚盤胞移植では妊娠率が高いとされていますが、最近の研究では胚盤胞移植は胚移植あたりの妊娠率は高いのですが、移植がキャンセルになった例を含めた妊娠率になると初期胚移植の妊娠率と差はないと報告されています。
また、胚盤胞移植では妊娠しない症例が初期胚移植で妊娠する場合もあり、子宮内の環境の方が胚の成長、着床に適している症例もあると考えられ、症例によっては必ずしも胚盤胞移植がベストとは言えません。

移植後は次のような点に注意します。

  • 胚移植から24時間は、入浴や水泳は避けます。
  • タンポンの使用は避けます。
  • 最初の妊娠検査までは、性交を避けます。
  • ジョギング、エアロビクス、テニス、スキー、登山などの激しい運動は避けます。
  • 新しい運動は始めないようにします。
  • 重いものを持ち上げないようにします。
  • かぜなどで熱を出さないようにして下さい。
  • サウナ、温泉、熱い風呂などで体温を上げないようにして下さい。
  • 胚移植後1〜2日は念のため軽い活動にとどめ、あとは以上のことに注意して通常の生活に戻ってかまいません。

6.黄体補充

体外受精の場合、GnRHアゴニスト、またはGnRHアンタゴニストを使用することが多く、そのため下垂体から分泌されるLHが抑制されます。その結果、卵巣から妊娠維持に必要なプロゲステロンの分泌がされません。そのため、黄体ホルモンの補充が必要になります。黄体ホルモンには子宮内膜を厚くさせ、胚が着床しやすい環境に整える働きがあります。黄体ホルモンを注射や腟座薬、内服薬などで補充していきます。黄体ホルモンが必要である事は明らかですが、卵胞ホルモンは必要であるのかは色々意見があります。卵胞ホルモンは子宮内膜の黄体ホルモン受容体の発現に必要であり、採卵周期では黄体期中期に卵胞ホルモンは急速に低下し出血の原因になることもあるため、投与した方がいいと思います。また、内因性の黄体ホルモンや卵胞ホルモンを分泌させるためにhCGの注射をすることもあります。しかし、hCGはOHSSの発生を誘発させる可能性もあり、採卵数が多い時は慎重に投与した方がいいと思います。
移植後2週間目に妊娠判定を行いますが、妊娠反応陽性であれば、妊娠維持のため、黄体ホルモンなどの投与を継続します。

7.凍結

移植しなかった残りの胚は凍結して保存し、後日胚移植をします。また、OHSSの重症化の予防、子宮内膜が薄いといった場合には、採卵周期に移植をしないですべての胚を凍結保存することもあります。凍結保存することによって、再度注射による排卵誘発、採卵をすることなく、融解した胚を体内に戻していきますので、患者の身体的、経済的負担が軽減されます。また、技術が進歩し、現在では新鮮胚移植後の妊娠率と変わらないと言われています。
生物の細胞は-190℃以下で、その活動が停止します。そのため、-196℃の液体窒素の中で胚を凍結保存することで長期保存が可能になるのです。凍結保存中の卵は、時間が経過しても劣化することはないので安心してください。しかし、凍結、融解時には少なからずともダメージを受けてしまいます。やはり質の良いものの方が、凍結、融解にも強いことから、質の良い卵・胚づくりが重要になります。

一般的に行われている凍結方法を紹介します

緩慢凍結方法
(Slow freezing)

受精卵・初期胚をそのまま凍結すると、細胞内の水分が結晶となり、細胞がダメージを受けてしまうので、まず凍結保護剤の入った凍結液に浸して脱水した後、専用のストローに入れ、プログラムフリーザーと呼ばれる機械で2時間くらいかけて徐々に冷却して凍結させる方法になります。この方法は初期胚の時に有効ですが、最近は行われなくなりました。

急速(ガラス化)
凍結方法(Vitrification)

高濃度の凍結保護剤の入った凍結液に浸して脱水し、専用のシートやチップにのせ、液体窒素の中に入れて一気に凍結する方法になります。上記方法よりも短時間で凍結します。特に胚盤胞の時の凍結にはこの方法が有効ですが、初期胚の時もガラス化法が一般的になりました。

凍結融解胚を移植する際には、凍結してある胚と子宮内膜の状態を同調させて移植することが重要になります。
そこで、ホルモンを補充しながら排卵日を定める方法と、自然周期に排卵日を同定する方法があります。移植日をあらかじめ決めたい場合、子宮内膜の状態が不良の場合などにホルモンを補充する方法が適応となります。ホルモン補充による移植の方が移植日の決定を容易にすることやタイミングが合わないための中止などを避けるために、多く行われている方法です。

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